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ソフトが不可欠になった現代将棋におけるタイトル戦。

渡辺明二冠が最近の日記で以下のように名人戦第3局について触れていました。

名人戦第3局は劇的な幕切れでした。自分も「▲85桂が詰めろで先手勝ちか」と思っていて、コメントの方々の「後手勝ち」を見るまで気が付きませんでした。1日目に戦いになりながら、双方秒読みになったのは中終盤の難しさを現していて、玉が薄い現代将棋の2日制で増えそうな進み具合だったかなと。
https://blog.goo.ne.jp/kishi-akira/e/303b74e4a8c98e70a0e9177880c71d8e

また、GW中のコラムでこんな興味深いことも書かれていました。

玉が固い将棋では攻めが多少は失敗しても悪くならないだけに読みの精度は問われないこともある。それに比べて現在、主流となっているバランスを重視する将棋は玉が薄いので1手のミスが命取りになる。すなわち、以前よりも読みの力が求められる時代になっている(中略)固さからバランスへ、そして読みの重視へ。
https://www.shogi.or.jp/column/2019/04/post_519.html


近代将棋の歴史というか大まかな流れとしては以下のようなイメージがあります。

1.序盤がやや未整備な大らかな時代(やや異端児の扱いで穴熊使いが出現)。大山~中原
2.終盤の高速化(光速化)によって寄せ方が類型化された時代(穴熊の評価が上昇)。中原~谷川
3.羽生の頭脳的に序盤が整備された時代(優秀な作戦としての居飛車穴熊が定着)。谷川~羽生世代
4.プロレベルのソフトが登場した時代(堅い囲いで攻めで勝つ定跡・研究が洗練)。羽生世代~渡辺明

で、現状はどうなのか?というと、

5.人間を凌駕したソフトが優劣不明と示す局面で戦う時代(従来の堅陣が微妙)。渡辺明~戦国時代

という感じ。

金銀三枚、ヘタすると四枚で玉を囲う将棋から、角換わりでは右金が飛車側に一路離れ、矢倉の評価がかなり下がった(囲おうとするのを急戦で咎める作戦が複数発見された)ため、玉が88や22の地点に収まる将棋が減り、仮にそこまで囲えたとしても以前のように堅くないです。

上記引用で渡辺二冠は「玉が固い将棋では攻めが多少は失敗しても悪くならないだけに読みの精度は問われない」と書いていますが、囲いの形が決まっているとその囲いにおける経験が(同じ囲いを用いている)他の将棋でも生きやすい印象があります。上記2、谷川光速流は簡単に言うと囲いごとの終盤の寄せ方の類型化が前提としてあり、「逆引きで如何にしてその形まで持っていくか、中盤の構想を練る」ことにより光速の寄せを実現しているのでした。

三冠王になった頃の渡辺明二冠の強みは類型化された戦型の中で”細かすぎて伝わらないモノマネ選手権”的な、小さな違いや変化から良い手順を用意するところにありました。最近ついに頭角を現しつつある、豊島二冠や永瀬さんも似たタイプでしょうか(最近の渡辺・豊島・永瀬はまたそこから更に進化している印象ですが)。

序盤の整備が進んだ羽生世代が活躍した上記3や、2・3を更に洗練させた4の渡辺明時代でも囲いが前提としてあったわけです。しかしソフトが人間を凌駕した結果、従来の囲いの評価が下がり、修行時代を含めて蓄積されていた「囲いに関する経験値」を活用しにくい将棋が増えています。あわせて新手・新局面に限らずどの将棋もソフトで解析されるため、中盤まで整備された高速道路で進むのではなく、ソフトが示す・自身の経験値が貯まっていない獣道を序盤から進むような将棋が増えている印象があります。

従来は囲いや類似型の経験値を活かして「形・棋理としてはこれ」という将棋が多かったですが、そういう将棋が(少なくとも居飛車においては)どんどん減っているのではないでしょうか(これの裏返しとして、形の経験値が貯まりやすい振り飛車党が逆に増えていたり、強い振り飛車党棋士がしぶとく?生き残っている理由もありそうです)。

薄い玉で未知の局面が中盤から延々と続くとなれば流れ弾に当たる頻度もあがるでしょう。逆転が増える可能性があります。また、永瀬さんのように、中盤で局面のボラティリティをおさえていくような将棋が勝ちやすくなるかもしれません。

ソフト同士の将棋をみてもジリジリとしたねじり合いが延々と続く…というのが多い気がしますが「勝ちを急がず、しかし勝ちになったら最短」という将棋が指せるかどうか?が重要になるのかもしれません。

と、ここまでは先週書いていた話。昨晩叡王戦が閉幕しました。二期続けてのストレート決着でした。後手番で永瀬新叡王が用いた「横歩取りなんだけど二筋方面は銀冠で縦の攻めに強い形をつくり、玉はちょんまげ美濃?坊主美濃?のほうへ入城する」作戦で二勝したのが大きかったですね。

後手番で相手の得意を外しつつ(結局高見さんは原動力だったエース戦法の土居矢倉を使えないばかりか相手に使われてしまった…)、自身の経験値が貯まっている美濃っぽい囲いで、後手番なのでその初期値程度のマイナス評価値は甘受し、しかしミスらないように低い陣形で相手に動いてもらう、動かないなら囲いの進展性で不満無し・・・というのは恐ろしい作戦家だなと思いました。

この形、今後流行るのかどうか?タイトル戦で2勝しているのでそろそろ水面下で研究が進んでいるかもしれません。
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テーマ : 将棋 - ジャンル : ゲーム

Tag : 高見泰地永瀬拓矢

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